整備不良の自転車が呼び寄せた一期一会

朝から自転車に乗った。娘の習い事、YTJの発表会を見に行く為。目的地は三鷹の駅前。約8kmの道のりだ。最近は通勤には電車を利用しており、自転車にはさっぱり乗っていない。そんなわけで大分放ったらかしなのですこぶる調子が悪い。人間の身体もそうだけど毎日使っていないと調子が悪くなる。それでも若いうちは無理も効くが、歳を重ねるとそうもいかなくなる。僕の自転車も老体なので、毎日使わなくなると具合も悪くなりがちなのだ。一週間乗らないとギヤの調子が悪くなる。後ろのディレイラーがちゃんと動かなくなるのだ。ワイヤーが錆び始めていて、固着するのだろう。少し無理をしてガチャガチャ動かしていると、ディレイラーが重い腰をあげ、ギアチェンジが出来るようになる傾向にある。

今日もギアが動かなかったので、準備運動を兼ねてグリップシフトをひねった。すると、ガチャガチャと大きめの音を立ててディレイラーが動き出した。が、いつもと違ってペダルがスコッと軽くなった。チェーンが外れたようだ。状態を確認すると、結構な重症だ。後ろのディレイラー周りだけではなく、前のスプロケットからもチェーンが落ちている。シティサイクルなのでフロントのスプロケットには左右にチェーンガードがついている。チェーンが足に触れないようにカバーも付いている。お陰で滅多にチェーンが外れることもないのだが、たまに外れてしまったときは大事になる。チェーンがボトムブラケットのあたりまで落ちてしまって、スプロケットに噛ませるには相当骨が折れそうだ。寒い冬の朝、悴んだ指先には堪える作業だ。

一緒に走っていた家族には先に行ってもらって直す事にした。とは言え工具もないので作業は難航する。

近所の、おじさんが声をかけてくれた。雑談しながら手をチェーンオイルで黒く染めていると、両手の指が均等に黒くなったあたりで動かせそうなところまで、たどり着けた。

『ウチで手を洗っていくと良い』おじさんは僕が作業していたとなりの肉屋さんだった。肉屋さんの裏方に案内され、物珍しい業務用の肉を捌く器具を眺めながら手を洗う。奥さんも出てきてタオルを貸してくれた。

洗い終わったのでお礼を言って、ペダルを踏み込むと、またガキガキと音を立ててチェーンが外れた。自転車は1cmも動く事なく沈黙した。

お肉屋さんの、夫妻は出かけるところだったようだ。僕はもう手を洗えないので、夫妻は軽自動車に乗り込む前に僕に軍手をくれた。軍手は大活躍して、僕の自転車を直してくれた。その後の道中でも、何度かチェーンは外れたが、軍手のお陰でさほど手を汚すこともなく修理をする事ができた。三鷹には10分程度の遅れで到着できた。お肉屋さんの軍手のお陰だ。

三鷹ではお肉屋さんに何か軍手のお礼を買っていこうと思う。利害関係の一切ないお、一期一会の繋がりというのはなんと清々しいものだろうか。大切にしていきたい、数値に現れない人としての基本性能だ。

整備不良の自転車も役に立つものだと思った。